「固定残業代」は時限爆弾?未払いリスクを解消しつつ、総額人件費をコントロールする賃金設計

「固定残業代」は時限爆弾?未払いリスクを解消しつつ、総額人件費をコントロールする賃金設計

【この記事でわかること】
・「うちは営業手当に残業代を含んでいるから大丈夫」という経営者の危険な誤解
・判例で否認されないための「有効要件」と、リスクゼロの賃金規定の作り方
・ダラダラ残業を減らし、成果を出す社員が得をする「逆算型」賃金設計シミュレーション

「営業手当に月5万円つけているから、残業代は払わなくていいんだよ」
「基本給の中に残業代も含んでいる契約にしているから大丈夫」

顧問先の経営者から、このような言葉を聞いて背筋が凍った経験はありませんか?
固定残業代(定額残業代)制度は、正しく運用すれば労使双方にメリットがありますが、一歩間違えば会社を倒産させかねない「時限爆弾(未払い賃金リスク)」になります。

もし、その固定残業代が裁判で「無効」と判断されたらどうなるでしょうか。
支払っていたはずの手当は「ただの基礎賃金(ベースアップ)」とみなされ、その上乗せされた単価で過去数年分の残業代を再計算して支払わなければなりません。その額は、社員一人あたり数百万円に及ぶこともあります。

本記事では、この時限爆弾を解除し、固定残業代を「生産性向上のための武器」に変えるための、社労士ならではの高度な賃金設計コンサルティング手法を解説します。

1. なぜ固定残業代が「時限爆弾」と呼ばれるのか

固定残業代導入の最大の動機は、経営者の「毎月の給料計算を楽にしたい」「人件費の変動を抑えたい」という意図です。
しかし、この「楽をしたい」という気持ちが、運用ルールを曖昧にさせ、リスクを増大させます。

ダブルパンチの破壊力

固定残業代が「無効」と判断された場合のリスクをシミュレーションしてみましょう。
(例:基本給25万円+営業手当5万円(固定残業代のつもり)=総額30万円)

【裁判所の判断】

  1. 営業手当5万円は「残業代」とは認められない。ただの給与(基礎賃金)である。
  2. したがって、残業代の計算単価は(25万+5万)÷所定労働時間で算出する。(単価アップ)
  3. 過去に支払った5万円は残業代の支払いではないため、実際の残業時間分を全額、今から支払え。

つまり、「払ったつもり」のお金が無駄になるだけでなく、計算単価が上がった状態で、過去に遡って二重払いが発生するのです。これが従業員全員分となれば、中小企業にとっては致命傷です。

2. 判例から読み解く「無効」にならない3つの要件

では、どうすれば有効になるのでしょうか。
最高裁(テックジャパン事件など)の判例に基づき、社労士が顧問先でチェックすべき「有効要件」は以下の3点です。

① 明確区分性(通常の賃金と残業代が分かれているか)

「基本給30万円(残業代含む)」という書き方はNGです。
「基本給24万円、固定残業手当6万円」のように、金額が明確に区分されていなければなりません。

② 対価性(何時間分いくらかの明示)

「固定残業手当6万円」だけでは不十分です。
「固定残業手当6万円は、時間外労働30時間分として支給する」と、時間数と金額の対応関係を就業規則や雇用契約書に明記する必要があります。

③ 差額支払いの合意(超過分を払っているか)

ここが最も見落とされがちです。
「30時間を超えた場合は、別途差額を支給する」という規定があるだけでなく、実態として超えた月に差額を支払っている実績が必要です。「固定だからいくら働いても同じ」という運用は違法です。

3. 総額人件費を変えずに導入する「逆算型」賃金設計

リスクを理解した上で、それでも固定残業代を導入したいというニーズは根強いです。
社労士が提案すべきは、総額人件費をコントロールしながら、法的にクリーンな状態を作る「逆算型」の設計です。

📐 従来の積み上げ式(コスト増)

基本給25万円に、プラスして固定残業代5万円を乗せる。
→ 総額30万円になり、会社の人件費負担が増える。

🔄 社労士の逆算式(コスト維持)

総額30万円を変えずに内訳を変更する。
「総額30万円=基本給X円+固定残業代Y円(30時間相当)」となるXとYを方程式で算出する。
→ 基本給は下がるが、手取り総額は変わらないため同意を得やすい。

この計算は、最低賃金割れや法定の割増率(1.25倍)を考慮する必要があり、Excelでの手計算は非常に複雑です。
JPパートナーズの「JINJIPACK」などに搭載されている賃金シミュレーション機能を使えば、総支給額と想定残業時間を入力するだけで、法的に適正な基本給と固定残業代のバランスを自動算出できます。

4. 「手当」から「成果給」へ。評価制度との連動で納得感を作る

固定残業代を導入する際、従業員から「基本給が下がるのは嫌だ」と反発されることがあります。
これを乗り越えるためのロジックが、「ダラダラ残業をなくし、効率よく働いた人が得をする制度への転換」です。

時間を「成果」に置き換える

「この手当は『残業代』という名前ですが、実質的には『効率化手当』です。
10時間で仕事が終わっても、30時間分の手当が満額もらえます。つまり、早く帰った方が時給が高くなる仕組みです」

このように説明し、さらに人事評価制度と連動させます。
「生産性の高い働き方をした人は、評価ランクが上がり、固定残業代のベース(等級手当)自体が上がります」
これにより、固定残業代は「リスクの塊」から「生産性向上のインセンティブ」へと生まれ変わります。

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5. よくある質問(FAQ)

固定残業代の導入・運用について、よくある質問をまとめました。

Q. 何時間分までなら設定しても大丈夫ですか?

法律上の上限はありませんが、36協定の限度時間(月45時間)以内にするのが安全です。45時間を超える固定残業代(例:80時間分)を設定すると、「長時間労働を前提としている」として公序良俗違反で無効になるリスクが高まります。一般的には30〜45時間で設定するケースが多いです。

Q. すでに導入している固定残業代を廃止したいのですが…

廃止して「実費精算」に戻す場合、残業が少ない社員にとっては「手取りが減る(不利益変更)」ことになります。十分に説明し、同意を得るか、あるいは減額分を基本給に組み込むなどの調整が必要です。この移行シミュレーションこそ、社労士の腕の見せ所です。

Q. 求人票にはどう書けばいいですか?

職業安定法により、固定残業代の記載ルールは厳格化されています。「固定残業代の金額」「その金額に含まれる労働時間数」「超過分を追加支給する旨」の3点を必ず明記してください。これが曖昧だと、ハローワークで受理されないだけでなく、入社後のトラブル原因になります。

固定残業代は「劇薬」です。用法用量を守れば、コスト管理と生産性向上の特効薬になります。
リスクを正しく恐れ、賢く活用するための賃金設計を、ぜひ顧問先に提案してください。

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